デザイン

新たなビジュアル、変わらない心躍るサウンド:Sonosの新しいブランドアイデンティティ 〜 その秘密 〜

John Paul Titlow

Sonosがブランドアイデンティティのビジュアルとフィーリングを刷新。カラー、イラスト、書体、そして将来を視野に入れて構築されたデザインツールを使用する、新たなアプローチが採用されました。ここではその秘話をご紹介します。

夢の世界を感じさせるサンタバーバラの風景。ブルーの海に溶け込むような澄み切った青空、遠くに霞む山並み。ヤシの木が立ち並び、さまざまな花々が散りばめられた南カリフォルニアに位置するこの街は、驚くほど多様性に満ちています。それは自宅の裏庭の風景というよりも、ポスターやパソコンの壁紙にあるようなインスピレーションが刺激されるシーンです。

その独特の地形とカラフルな景観に魅せられ、たくさんの人たちがバケーションを過ごそうとサンタバーバラにやってきます。Sonosの創業者たちが2002年にこの地でビジネスを始めることを決めたのも、それが理由のひとつでした。彼らは、ホームオーディオを一新するために、活気あるテクノロジーの中心地ではなく「穏やかな楽園」の広がる街を選んだのです。今日、Sonosは世界各地にオフィスを構えるグローバルブランドとなりましたが、サンタバーバラが創業当初の発明、デザイン、意思決定を支えた場所であることには変わりなく、今のSonosの原点でもあります。

そんなことから、Sonosのブランドデザインチームが今年のブランドのビジュアルとフィーリングを再考しようとした時も、インスピレーションを得るために同じ風景に目を向けたのは当然のことでした。

新しいSonosのブランドアイデンティティは、社内のクリエイティブチームと、Anomaly(ニューヨーク)、Instrument(ポートランド)とのコラボレーションによって制作されました。季節性のあるカラーパレットと新しいイラストスタイルを採用したほか、企業ロゴの書体、レイアウト、向きのルールを変更するなど、デザイン要素の見直しが行われました。

「このリブランディングの取り組みには、厳格なデザインプロセスとシステム思考をもって臨みました。その中心となるのはリスナーとそのニーズに対する情熱でした」と、Sonosのブランド担当バイスプレジデント、ドミトリ・シーゲルは振り返ります。「そのプロセスの中で余計なものやメタファーを削ぎ取っていき、私たちの本来の姿、そして私たちが行っていることの中にパワーを見出しました。製品が持つ不朽の美しさ、ソフトウェアのシンプルさ、品質とデザインに対するコミットメント − それがSonosなのです。」

さらに、Sonosはブランドボイスも改めました。新しいボイスには、サウンドとリスナーのエンパワーメントを優先したよりシンプルで永続的な言葉を採用し、音楽に着想を得た隠喩や決まり文句は避けました。

「このリブランディングの取り組みには、厳格なデザインプロセスとシステム思考をもって臨みました。その中心となるのはリスナーとそのニーズに対する情熱でした」と、Sonosのブランド担当バイスプレジデント、ドミトリ・シーゲルは振り返ります。「そのプロセスの中で余計なものやメタファーを削ぎ取っていき、我々の本来の姿、我々が行っていることの中にパワーを見出しました。製品が持つ不朽の美しさ、ソフトウェアのシンプルさ、品質とデザインに対するコミットメント − それがSonosなのです。」

5月初旬、Sonosは新しいブランドアイデンティティとブランドボイスの展開を開始しました。その皮切りとして実施したのが新しいグローバルブランドキャンペーンです。タイムズスクエアやローリングストーンズ誌など、世界の大手メディアや主要都市で広告を掲載しました。また、Instagramのグローバルアカウントや顧客宛のメールなど、主なデジタルタッチポイントのデザインも一新し、ウェブサイトは完全にリニューアルされました。

「私たちにとって、ブランド戦略とブランドアイデンティティの再考、そしてウェブサイトの完全リニューアルという、またとない機会になりました」とシーゲルは語ります。「こういうことは滅多にありません。アイデンティティがこれほど強力になったのは、コラボレーションのレベルの高さが大きく寄与しています。私たちは、アイデンティティがウェブサイトで効果的に機能するよう、念を入れました。ウェブサイトは最も複雑なブランド体験になりますから。」

色でアピール

新しいブランドのビジュアルで最も目につくのは「色」かもしれません。実際チームは、いつまでも変わらない1色のブランドカラーではなく、会社と製品ラインに合わせて適応・拡張できる季節性のあるカラーパレットを作ることを決めました。Sonosの製品は通常ブラックかホワイトですが、これを進化させ、パレットを拡大していきます。

「組織全体が永久的なブランドカラーという概念に拒否感を持っていました」と語るのは、Sonosグローバルクリエイティブ担当ディレクターのマイケル・レオンです。「そんなものは時代遅れに思えたからです。私たちはそこから解放されて初めて、より時節にかなった影響について柔軟に考えることができました。何かルールを決めたとたんに、それはすぐに時代遅れになってしまう。世界はそれほどすごい速さで変化しているんです。」

最初のシーズンパレットとなったのは、スカイ、ローズ、サンド、ラスト、パインというコンビネーション。これは、Sonosサンタバーバラ本社周辺の風景から自然とイメージされました。

「これらの色は間違いなく私たちを取り巻いているものです」と、Sonosブランドデザインチームのアートディレクター、ジュリア・ジャンゲナートは語ります。「風景、海、植物。カラーパレットはまさにこの環境に触発されて生まれました。」

しかし、当然ながらホームタウンに対する誇りだけがカラー選定プロセスを決定付けたわけではありません。「リサーチを行い、最新のトレンドに影響を受けました。それで、『今』を感じられるよう、最初のシーズンパレットの色を選んだのです」とジャンゲナート。

Sonosが成長して新たな拠点、領域、製品カテゴリーへと拡大していったように、ブランドが使用する色も時とともに進化していきます。その柔軟性を維持することが、ブランドと製品(何年も前にリリースされたものも含む)の印象を新鮮に保つカギなのです。

この数年で「ピカピカのきれいな場所に設置されたスリムなデザインのブラック/ホワイトのスマートスピーカー」のイメージは消費者向けテクノロジーにの世界においてありきたりのものとなり、そうしたデバイスのマーケティングに使用する言語までが陳腐なものとなってきました。Sonosにとっては、よりカラフルで柔軟性のあるブランディングにシフトすることが会社と製品を際立たせる、とジャンゲナートは言います。

「まるで大規模な量販店の中を歩いている時のような、どこまでも続く単調さを突き破らなければならないと感じていました」と彼女は続けます。「すべてが同じように見えてくるんです。」

Sonosは、色をどのように使うかを決断するためにブランド、ハードウェア、ソフトウェア、エクスペリエンスの各担当チーム関係者を集めて少人数のグループを組み、「カラー委員会」を立ち上げました。このクロス・ファンクショナル・チーム は、毎月のミーティングでブランドがどのような場面でカラーを使用しているのかを検討するものです。矛盾点や支障となり得ることについて話し合い、最終的に新しいカラーパレットの構想を確定させました。

「私たちには、パレットが引き出す感情をもとにブランドのトーンを変える力があります」とレオンは言います。「それがブランドの位置付けを保つために私たちが用いる方法です。数年ごとにリブランディングを行う必要はありません。」

イラストでサウンド体験のすべてを説明

Sonosは、簡単に連動して機能する製品のシステムであるさまざまなハードウェアとソフトウェアを通して、気軽に楽しめるサウンド体験を提供することを誇りとしています。ただ、簡単に使えるものであっても、必ずしもシンプルに説明できるものであるとは限りません。写真などの二次元の視覚媒体を使用して目に見えないサウンドを説明するとなると、特に複雑になります。

マルチルームオーディオ、音声操作、Airplay 2などのコンセプトや、ソフトウェアとハードウェアのマジックで実現するSonosのサウンド体験をデザイナーが視覚的に説明しようと思えば、「二次元の画像」より「言葉」の方がずっと簡単なのです。さらに、製品そのものを使うともっと簡単になります。そのため、クリエイティブなイラスト表現が活用されているのです。

新しいブランドアイデンティティのもと、Sonosはイラストレーターのジェイムス・グラハム氏と協力して、手描きエレメントを意図的に多数投入し、新しい独自のイラストスタイルを生み出しました。こうして新しいイラストツールキットを手にしたグラハム氏とSonosのブランディングに携わる他のデザイナーたちは、Sonos製品の体験の詳細やニュアンスを文章や動画・ビデオなどの媒体にそれほど頼ることなく、分かりやすく簡潔に伝えられるようになりました。

「イラストを使うとSonosの本来の姿を見せることができます」と語るレオン。「イラストでブランドを飾り立てようとしているのではありません。ツールとして活用する、実用的なものなのです。」

イラストは、他のタイプの画像と組み合わせるとSonosの体験をより大きな視点で表現することもできます。例えば、ハードウェア/ソフトウェア間の体験要素のつながりは、Sonosアプリのインターフェースを描くという新しいシンプルな方法によって簡単に説明できます。また、それを実際にサウンドを聴いているシーンの写真などの画像と組み合わせることもできるのです。

「イラストを交えてアプリを紹介するというのは、Sonosの総合的なオーディオ体験をシェアする方法として画期的でした」とレオンは続けます。「スピーカーはその体験の一部にすぎません。しかし、今まではハードウェアの画像だけを使ってその体験を伝えようとしていたんです。肝心なのはソフトウェアだったんですよ。」

ロゴの向きを変えて、柔軟なブランドに

新しいカラーパレットとイラストスタイルに加えて、Sonosはクリエイティブなブランドづくりにおける文字の見せ方を変更しています。これは特に、書体という形で現れています。長年、主要フォントとして使ってきた「Helvetica Neue」をやめ、「Aktiv Grotesk」に変更しました。この変更は、一つのサンセリフ書体を別のサンセリフ書体に移行しただけの小さなシフトで、特に抜本的な改革ではありません。

ジャンゲナートは、新しい書体について「以前より少し興味深い書体になりました」と述べています。「クオリティがユニークで、コンテンポラリーな感じ。自分たちのものとして捉えやすいですね。」

今回、変わっていないものはというと、Sonosのワードマークのビジュアルです。最後に改訂されたのは2015年で、ブルース・マウ氏が手がけました。ロゴは、たまたまアンビグラムにもなっています。これは、上下逆さまにしても裏返しても同じという意味です。デザインはそのままで、向きのルールが新たに加わります。

「ロゴはこれまでと同じ感じですが、今後は向きを垂直にしたものも使用します。これはSonosシステムの自由さと多様性に影響されたものです」とジャンゲナートは述べています。

ロゴを横向きにできることで、デザイナーはどんな土台であってもより柔軟にワードマークを添えられるようになります。

ワードマークを横向きにするのは初めての試みではありません。かつてPlay:5やPlaybaseなどの製品では横向きのロゴが採用されていました。新しいビジュアルアイデンティティは、Sonosが製品に対してクリエイティブな形で敬意を表すひとつのスタイルに過ぎません。横向きのロゴのように詳細を真似るだけでなく、柔軟でモジュール式、そして拡張しやすいデザインシステムを作り上げることで実現しました。

こうした創作をめぐる拡張性は、今後数年の間、特に製品のシステムを拡大する際やそれを支える新たな創作活動を行う際に効果を発揮することでしょう。それまでの間、Sonosは新しいクリエイティブツールを思う存分に活用していきます。

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